ASF傘下となったOpenOffice Incubator Projectでは何が起こった? 開発者に聞く:Apache OpenOffice編

 5月8日にリリースされたApache OpenOffice 3.4は、プロジェクトがApache Software Foundation(ASF)傘下となって初めての成果物だ。プロジェクトがASF傘下になり、そして初の成果物をリリースするまでに、プロジェクト内では何が起こっていたのだろうか。Apache OpenOfficeのメンターであるRoss Gardler氏に、プロジェクトのこれまでと今後について話を聞いた。

 SourceForge.netで公開されているPodcast「The Anvil Podcast」では、さまざまなオープンソースプロジェクトの開発者にインタビューを行っている。今回はApache Software Foundation(ASF)傘下となった「Apache OpenOffice」プロジェクトでメンターを務める、Ross Gardler氏へのインタビューをお送りする。

 ――今回のインタビュー相手はRoss Gardlerさん。Apache OpenOffice Incubatorプロジェクトのメンターの1人だ。

 Ross:やあRich、あなたとお話しできるなんて嬉しいよ。

――最後に話したのはApacheConの時だったけど、その時はプロジェクトもまだ始まったばかりだったね。その後、コミュニティがApache Way(Apacheのやり方)に慣れるまで、どういったことが起きたのかを聞きたいんだ。

Apache OpenOffice

 Ross:最大の変化といえば、それは11月にまでさかのぼるのだけど、「『コミュニティのために何かをやってくれる誰か』というのはいない」ということを、コミュニティが理解できたことだと思う。最初のうちは、「誰が私達のためにマーケティングしてくれるんだ」、「誰が私達のためにカンファレンスを開いてくれるのか」、「誰があれをやって、誰がこれをやるのか」、という感じだった。だがASFはそういった類いのことをやるために立ち上げられた組織ではない。そういうことは、各プロジェクトがそれぞれでやらなくちゃいけないんだ。だから、このことを理解してくれたことが一番大きなことだったと思う。もしプロジェクトコミュニティが何かやりたいことを見つけたならば、自分達でそれをやる方法を見つけなくてはならない。それが理解してもらえた時点から、彼らはかなり早く動けるようになったよ。そして、その最たるが先日のリリースなんだ。

 ――つまり、プロジェクトがASFの仲間入りをしたとき、(なにかをしてくれる)「彼ら」ってのは「我々」になる、ってことかい?

 Ross: そう、だいたいそんな感じだよ。ASFはプロジェクトに居場所を提供する法人として存在しているだけであり、プロジェクトをコントロールしたり、面倒をみたり、成功に導くために存在しているのではない。そういったことは、すべてコミュニティに委ねられている。言い換えれば、コミュニティがApache Software Foundationを最大限利用するためには、Apache Software Foundationの一部にならなくてはならないってことなんだ。

 ――プロジェクトの次のステップはなんだい? すでにプロジェクトからリリースされているものもあって、それらはすでにApache Software Licenseで公開されているよね。インキュベータから抜けだすための次のステップは?

 Ross:それについては、メンターそれぞれに違った見解があると思う。だからここで話すことは私の見解なんだけど、まだ公開されていないコードの中に、いくつか知的所有権(IP)に関する問題が残っていると思うんだ。リリースされているものについてはIPの問題はなく、Apache License下にある。でも、レポジトリの中にあるものについては、トップレベルプロジェクトとなったときにそのまま利用できるのか疑問があるものも含まれている。といっても、リリースに漕ぎ着けるために今までチームがやってきたことに比べると、それは大した問題ではない。

 プロジェクトの多様性の面では、深刻な問題は一切ない。もちろん、自らの考えをいろいろ反映させようとしている雇用主が1人いる、ということは抗いようのない事実ではある。だがいっぽうで、プロジェクト内で活発にリーダーシップを発揮しつつ、ほかの団体で仕事している独立開発者もかなりたくさんいるんだ。だから、多様性に関して私は一切心配していない。あとはOpenOfficeコードベースを構築する要素の最終的なクリーンアップぐらいで、そんなものは数週間あれば処理できるものだから、私個人としては、その時点で卒業について喜んで話ができると思う。

 ――Apache OpenOfficeコミュニティと、TemplatesExtensionsコミュニティとの関係は? オーバーラップするところが結構あったりするのかな、それとも、離れた関係にあるのかな?

 Ross:多少はオーバーラップするところがあるよ。ExtensionとTemplatesコミュニティは、彼らのソフトウェアやプラグインなどを、いかなるライセンスでもリリースできる。これが意味するところは、ASFのインフラでこれらのプロジェクトをホストすることはない、または、少なくともこれらのプロジェクトの中にはホストできないものがあるということだ。 我々がApache Software License下のコードしかリリースしないという理由でね。

 だから、彼らが同じコミュニティの一部であるとは言い難い。彼らはテストを行ってくれるコミュニティの一部ではあると言える。自分たちの拡張機能がOpenOfficeで機能するかどうかをテストしているんだからね。だけど、彼らは自分達のソフトウェアや拡張機能などを外部でメンテナンスしている。彼らがどこでプロジェクトをホスティングするのかといった問題については、解決のためSourceForgeが手を差し伸べてくれた。

 以前はSun MicrosystemsやOracleによってプロジェクトは所有され、ホスティングされていた。しかし、先ほど述べたとおり、我々は非Apacheライセンスのものをホストすることはできないし、すべての拡張機能をApacheライセンス化するように要求するのは適当ではないと考えたんだ。そこに登場したのがSourceForgeだ。現在、SourceForgeはこれらすべてのホスティングサイトを提供している。SourceForgeはこのことを喜んでいると思うよ。それがSourceForgeの役割だしね。

 もちろん、OpenOfficeコミュニティはOpenOffce内の拡張メカニズムを改善するのに協力してくれる人の参加を歓迎する。だからオーバーラップするところはあるけど、拡張機能の開発者がApacheコミュニティに参加しなくてはならないという必要性はまったくないんだ。

 ――以前Jürgen(Jürgen Schmidt、OpenOfficeの主要開発者の1人)が、プロジェクトが今後向かうべき方向について少し話してくれたんだが、インキュベーティングプロジェクトのメンターとして今後あなたはプロジェクトにどう関わって行く? プロジェクトがインキュベーション段階を卒業してトップレベルプロジェクトになったら、その一員として残る? それとも、それ以降は関わることを辞めてしまうのかい?

 Ross:(プロジェクトが卒業したら)メンターとしての私の役割はそこで終了だ。プロジェクトが卒業した時点で、彼らはApache Wayを理解しているということになり、我々が「プロジェクトの運営はこうあるべき」と思うやり方に沿ってプロジェクトが運営されていることになる。そうなったら、私はメンターをやめることになるだろう。そのコミュニティの一員として残るか否かは、どちらとも言えない。

 私はOpenOffice開発者ではないし、OpenOffice開発者になったことも一度もなく、なる予定もない。だから、私がコミッターとして残ることはありえない。だがメンター達の中には、プロジェクトから離れず、プロジェクトと共に歩んでいく人もいるだろう。そして、Project Management Committeeの通常メンバーとなり、コミュニティ内のほかのメンバーと同等の権利を持つことになるかもしれない。もし私が辞めた後にそういった権利を取り戻したいと望むのならば、すべて一から始めなければならない。これからプロジェクトに新しく参加しようとしている人と同様にね。

 ――ということは、インキュベーティングプロジェクトのメンターになるには、そのプロジェクトの開発者である必要性はなく、またコードベースに詳しくなくても良いってこと?

 Ross: その必要性はまったくない。我々の仕事は、技術的なものではないんだ。メンターは、そのプロジェクトの技術的なことには一切口出しをしない。我々の役割は、プロジェクトコミュニティがASFの中でうまくやっていけるように手助けすることであり、我々のインフラの使い方や、知的財産権やリリース等にまつわる手続きが理解できているか、質問があるときにどこに聞いたら良いのかなど、そういったことの面倒を見ているんだ。希望があれば、「Apache Way」でできるように手を貸すってわけ。だから、テクニカルチームの一員である必要はまったくない。むしろ、テクニカルチームの一員でないほうが良いんだ。プロジェクトコミュニティにとって、プロジェクトを技術面で管理しているのは自分達なんだと感じられる方が良いからね。彼らが技術的なことでApacheに指導を仰ぐことはないよ。だから私個人の考えとしては、メンターが技術的にプロジェクトに関わっていないのは良いことだと思っている。

 ――OpenOfficeコミュニティとはどんな感じで関わっているの?

 Ross:Apache OpenOfficeを取り囲むコミュニティの長所について触れる必要があるね。ここにたどり着くまでは、本当に大変だったんだ。最初の頃のOpenOffice.orgコミュニティ内(現在のApache OpenOfficeプロジェクト内のコミュニティーメンバーとは一切関係がない)には、特殊な緊張感があった。そして時として険しい道のりの時もあり、嫌な事を公言されるようなこともあったが、今は徐々に、コミュニティ内のほかのODF(OpenDocument Format。OpenOfficeなどが採用しているオープンな文書フォーマット)関連プロジェクトとOpenOfficeコミュニティとの間で、本当のコラボレーションが見られるようになってきていると思う。

 インキュベーションの段階でいくつかセキュリティ問題が起きた際、コード拡張でもコラボレーションがあった。ドキュメントの作成でもいくつかコラボレーションが見られる。そして、Apache OpenOfficeプロジェクトのリリースに伴ってさらなるコラボレーションが期待できる。だからそれまでは、これらのコミュニティで何が起きるんだろうかと傍観していた人も、ぜひ参加してほしい。傍観していないで、参加してほしい。我々は、Open Documentation Format Foundationをより強固なものにしていきたい。ドキュメントに合った適切なコードで、コラボレーションできるようにしたいんだ。SourceForgeのようなところが手を差し伸べてくれたり、IBMやSugar CRMなど、あらゆる方面から関わってくれている何百という人達がいてくれるが、こうしたことがもっとたくさん起こる必要がある。もっともっと多くの人がApache OpenOfficeの旗の下に集まって働き、その結果このエコシステム全体にそれが還元される必要があるんだ。

 ――いろいろ話してくれてありがとう。

 Ross:いえいえ。楽しかったよ、Rich。