レビュー:Gentoo新版「Secret Sauce」には良い点も悪い点も

 何度かの延期を経て、Gentooがついにバージョン2007.0(コード名Secret Sauce)をリリースした。しかし開発期間が延長されたのにもかかわらず、ディスプレイドライバには明らかにバグがあり、それが原因で、ハードディスクへのインストールも可能なライブCD/DVD版は適切に動作しなかった。とは言えライブCD/DVDとしての使用をあきらめ、チューニング可能というGentooの本来の売りを引き出すことが可能な手動でのインストールを行なうと、Gentoo 2007.0は氷上にいるかのようにスムーズに動いた。

 Gentoo 2007.0には複数の版が様々なプラットフォーム用に用意されている。人気が高いのはx86プラットフォーム用とAMD64プラットフォーム用の、ライブDVD版、ライブCD版、minimal CD版だ。ライブCD版にはLinuxカーネル2.6.19、Xorg 7.2、GNOME 2.16.0、OpenOffice.org 2.1.0、Firefox 2.0.0.3、Thunderbird 1.5.0.10、Evolution 2.8.2.1、そしてIRCとIM用のX-ChatとGaim(現Pidgin)などが含まれている。一方ライブDVD版には、ライブCD版に含まれているすべての他に、KDE 3.5.5、XFCE 4.4.0、GIMP 2.2.14、Abiword 2.4.6、KOffice 1.6.1やその他いくつかのアプリケーション、ツール、ライブラリなどが含まれている。

 私は32ビット用のDVD版とCD版をそれぞれ、デュアルコアデスクトップ、ATIカードを搭載したCeleron 1.7GHzデスクトップ、Celeron 1.4GHz IBMノートPC、の3つの環境で試してみた。 その結果、DVD版でもCD版でもATIカードを搭載したデスクトップ上ではXを起動することができなかった。このことについてGentoo開発者のAndrew Gaffney氏は「2006.1から2007.0までのある時点で、xorg-serverのebuildでは、video_cards_atiではなくvideo_cards_{mach64,r128,radeon} を使うように変更された。しかしそのような変更にも関わらず、プロファイル内のデフォルトのVIDEO_CARDSはその変更を反映するように更新されなかった。その結果x86/amd64用のLiveCD/LiveDVDでは、どのATIドライバも構築されなくなってしまった」とGentooプロジェクトのBugzillaページで説明している。

 この問題を回避するために私はxorg.confファイルを手動で編集して、基本的な機能だけが含まれているvesaドライバを使用するようにした。ATIカード搭載マシンで試したところ、ライブDVD版については成功したが、ライブCD版ではやはりXを起動することができなかった。一方ライブDVD版には別の不具合があり、Intel 855GMチップセット搭載のノートPC上でi810ドライバを使用したところ、Xを起動することができなかった。こちらに関しては、vesaドライバを使用する回避策を試してみても、うまく行かなかった。

 Gentoo Linux Handbook には「ライブCD/DVD版の環境には、グラフィカル/コマンドライン用Gentoo Linuxインストーラへのリンクとオフライン版の本ハンドブックへのリンクが用意されている」と記載されているのだが、vesaドライバを使用するようにxorg.conf設定ファイルを編集後にstartxコマンドを使用してXを起動した場合には、それら3つのリンクはなかった。しかしVMware 6の仮想マシン上でライブCD版を実行した場合には、xorg.confを編集しなくてもXが起動し、GNOMEデスクトップにはそれら3つのリンクがあった。なおVMwareやその他の仮想化ソフトウェアは、独自の最小限のグラフィックカードを使用している。また驚いたことに、同じ仮想マシン上でライブCDのISOをライブDVDのISOと入れ替えると、Xは再び起動しなくなった。ライブDVD版では(Intelチップセット搭載のノートPCのときと同様)、vesaドライバを使用する回避策を施してもXを起動することができなかった。

素晴らしいインストーラ

インストーラの画面(クリックで拡大)
 Gentooの売りの一つにユーザがディストリビューションをソースからコンパイルするためユーザのマシンに最適化されたシステムになるということがあるが、かなり以前にGentooでは、1台のマシンに対して行なったインストールの設定を利用して他のマシンのインストールの自動化を図ることで複数台のマシンにGentooをインストールする必要のある管理者の手間を削減するという、インストーラについての作業に着手していた。この場合インストーラは、すべての設定作業を飛ばしてインストールを開始することができるように、1台のマシンのインストールのプロファイルを別のマシンについても使用することになる。

 しかし今や「より高速な自動インストールの実現」はインストーラの当初の目標という位置付けであり、インストーラのFAQによると現在GLI(Gentoo Linux Installer)は、比較的経験の少ないLinuxユーザがGentooをインストールするのを手助けするための作業に集中しているとのことだ。そしてGLIがあるため、2007.0のライブDVD版とライブCD版はどちらも、ネットワーク接続を必要とせずにインストール可能なインストール用ディスクとして使用することもできる。なお2007.0のライブDVD/CDに含まれているインストーラの最新版は、以前のものよりもずっと優れている。私はインストーラのグラフィック版とコマンドライン版の両方を試してみたが、どちらを使っても問題なくGentooをインストールすることができた。

 ただしGentooのインストーラはまだ現在のところは、一つのステップから次のステップへと進む時に必ずしも分かりやすくない部分があり、UbuntuやFedoraのインストーラというよりはSlackwareやFreeBSDのインストーラに近い。例えばパーティションの設定やマウントポイントの追加などの一部のステップでは、ユーザは設定の保存後、インストールを続行するために前の画面に戻らなければならない。そのような画面にもOKボタンがあるため、初心者ユーザにとっては次に行なうべき適切なことが分かりにくいかもしれない(ここでパーティションの設定を完了してユーザがOKボタンをクリックすると、たった今完了したばかりのプロセスがまた始まってしまう)。とは言えデスクトップ上に用意されているGentoo Linux Handbookでは、スクリーンショット付きでインストール手順が詳しく解説されている。

 一方、Linuxのインストールに慣れている人はインストーラを快適に使うことができるだろう。GLIは操作が簡単になっただけでなく、Gentooのインストーラとしての売りである点もしっかりと維持している。つまり従来と変わらず、コンパイラオプションのカスタマイズや、特定のプラットフォーム用のフラグの設定などを行なうことができる。

Live CDの画面(クリックで拡大)
 けれどもインストーラには粗削りな部分もあった。CD版のインストーラでは、パーティション分割のステップに入る直前に失敗して、インストールを完了させることができなかった。またノートPCには、端末ウィンドウでインストールを行なうコマンドライン版のインストーラを使用したのだが、Gentooがインストールされている間、他のマシンで別の作業をして、数時間後に戻ってみると、ノートPCのデスクトップの端末ウィンドウにはインストールが完了したのかあるいは失敗したのかを示すメッセージも何もなく、Gentooが問題なくインストールされたのかどうかを知るためにはリブートする以外に方法がなかった。

 インストール作業を始める前にインストーラは、インストール作業中に行なう選択についての情報を保存するファイルを作成するかどうかをユーザにたずねる。このファイルは、複数マシンへGentooを複製するというGLIの当初の目標のために後ほど使用される。このファイルには、パーティション構成、使用するカーネル、ブート時に起動するサービス、ユーザ情報などインストールの際に選択したオプションや設定のすべてが保存される。なおこのファイルにはルートパスワードとユーザパスワードも保存されるが、どちらもMD5ハッシュアルゴリズムを使用して暗号化される。

 私が試した中で、まったく問題なくインストールを完了することができたのは、minimal CD経由で、Gentooの旧来のStage 1インストールを行なった場合のみだった。その際私は、512MBのRAM、古いIDEハードディスク、1.3GHzのCeleronを搭載した地味なデスクトップ上で、完全なGNOMEデスクトップを含め様々なパッケージを選択した。パッケージはすべて低速な256Kbpsインターネット接続経由で取得し一週間ほどかかったのだが、これはGentooユーザでない人には驚くべきことのように聞こえるかもしれない。Gentooのインストールではまず、インストールする全パッケージをインターネット経由で取得し、その後それらのパッケージをソースからコンパイルする。このコンパイルのプロセスでも、システム上のプロセッサや物理RAMやハードディスク次第で、非常に長い時間がかかることがある。この時間を短縮するため、現在GentooではStage 3インストールをユーザに推奨している。

Gentooを使う

 Gentooが起動した後のユーザ体験についても印象は様々で、良いものも悪いものもあった。Gentooディストリビューションは高速にブートし、デスクトップには良い感じのアイコン/テーマ/壁紙が表示された。またOpenOffice.orgやFirefoxなどの代表的なアプリケーションは短時間で起動した。しかし奇妙なことに、理由は分からないがハードディスクにインストールしたGentooでは、通常のユーザが管理用のアプリケーションを実行することができなかった。つまりルートシェルを開いたりブートパラメータを変更したりするなどスーパーユーザ特権が必要なアプリケーションを実行しようとするとGentooはルートのパスワードの入力を要求するのだが、パスワードを受け付けなかった。ところがルートになるために手動でsu -を実行してパスワードを入力すると、瞬時に認証された。

 Gentooは最近のカーネルを採用しているため、ハードウェアのサポートは優れていた。検出は適切に行なわれたが適切なドライバがなかったグラフィックカードを除くと、PCMCIAワイヤレスカード、USBマウス、USBキーボード、安価なPS/2-USB変換器、USBメモリ、USB接続のカメラなど私のデバイスのすべてをGentoo 2007.0は適切に認識して設定した。ただしGentooはUSBデバイスの自動マウントを行なわないので、USBデバイスを利用するためには、デバイスを接続してdmesgの中でデバイスのIDを探し、手動でマウントポイントを作成して、/etc/fstabに適切なマウント情報を追加する必要がある。このような作業を行なう必要のないディストリビューションが10種類以上あるということを考えると、この点はやや不便に思われる。

 とは言えUSBドライブをマウントすると、ドライブに保存されている画像を閲覧したりPDFファイルを読んだりMP3を聞いたりAVIを再生したりすることは問題なくできた。GentooではDVDを再生することもでき、人気のあるDVDリッパーのdvd::ripも含まれている。

 Gentooのインストール後は、GentooのPortageパッケージ管理システムを利用して、アプリケーションを追加したりシステムをアップデートしたりすることができるが、これらのアプリケーションは、インターネット経由でダウンロードされ、ソースからコンパイルされる。このための手続きは、Gentooマニュアルの中で詳しく説明されている。なお同マニュアルはライブCD/DVDの中にあり、ハードディスクにインストールされたシステム上にはない。

 文書では解決できない問題がある場合には、公式Gentooフォーラム上で質問すると良いだろう。同フォーラムは活発にモデレートされていて、役に立つスレッドは当人以外にも活用できるよう上位に移動されている。また多数のメーリングリストIRCチャンネルが存在し、デスクトップ上のGentooや特定のハードウェアアーキテクチャ上のGentooなどさまざまなテーマについて議論されている。

 最近では、インストールする前に試してみることができる「ライブLinuxディストリビューション」に慣れてしまっているユーザも少なくない。そのようなユーザに対してもGentooを使いやすくしようというGentoo開発者の努力は称賛に値する。GentooのGLIは使いやすいだけでなく、柔軟にチューニングが可能というGentooのインストールの売りをこれまでと変わらずユーザに与えて続けている。しかしライブCD/DVD版のグラフィックスカード・ドライバの問題によって、それらをダウンロードした何千というユーザの大半が、Xを起動させることさえできずにがっかりして使用をあきらめることになるかもしれない。

 2007.0リリース自体にはこれといった問題はないが、ライブ版には改善の余地が大ありと言えるだろう。

NewsForge.com 原文