「Linuxベンダーを訴えるつもりはない」――Microsoft幹部が明言、「235件の特許侵害」発言で揺れるオープンソース界の鎮静化をねらう

 「オープンソース・ソフトウェアがMicrosoftの特許を侵害しており、ベンダーらに損害賠償請求を行う」とするMicrosoft幹部の強硬な発言は、オープンソース・コミュニティに少なからず衝撃を与えた。IDG News Serviceはこのほど、Microsoftのプラットフォーム戦略担当ジェネラル・マネジャー兼オープンソース・プロジェクト担当ディレクターを務めるビル・ヒルフ氏にあらためてその真意を聞いた。

ジェレミー・カーク
IDG News Service ロンドン支局

 「Linuxを含むオープンソース・ソフトウェアは、Microsoftが所有する特許を235件も侵害している」――先ごろ米国の経済誌『Fortune(フォーチュン)』に掲載されたMicrosoft幹部(Microsoftの顧問弁護士であるブラッド・スミス氏と、同社の知的財産およびライセンシング担当副社長を務めるホレイショ・グティエレス氏)のこの発言は、オープンソース・コミュニティに大きな衝撃を与えるところとなった(関連記事)。

 それをさかのぼること約半年前の昨年11月には、同社はLinuxを手がけるNovellとクロスライセンス契約を締結し、オープンソース・ソフトウェア・ベンダーに「ライセンス契約を結びさえすれば知的財産権の問題は解決する」と、ソフト路線で呼びかけていた。

 しかしながら、今回一転して強硬な姿勢を見せたことで、オープンソース・コミュニティは、将来Microsoftから知財訴訟のターゲットにされるのではないかとの不安におびえることになったのだ。

 そこで、IDG News Serviceは、Microsoftのプラットフォーム戦略担当ジェネラル・マネジャー兼オープンソース・プロジェクト担当ディレクターを務めるビル・ヒルフ氏に単独インタビューを行い、先の同社幹部発言の真意と、それがオープンソース・コミュニティに与える影響を聞いた。

 ちなみに、ヒルフ氏はMicrosoftに入社する前は、IBMでLinuxおよびオープンソース技術戦略を担当、12年間にわたってオープンソース・ソフトウェア分野に携わってきた。

―― フォーチュン誌の記事は、今後Microsoftが特許に関する権利を強硬に主張することになるのではないかとの懸念を、オープンソース・コミュニティに与えた。あの記事で、Microsoft幹部が(侵害されていると主張する)特許件数まで明らかにすることを、Microsoft側は事前に知っていたのか。

 知っていた。ただ、フォーチュン誌の記事が当社の戦略を正確に伝えなかったことで、問題が大きくなってしまったようだ。記事には、あたかも当社が戦略を変更したかのように書かれているが、そうではない。

 Novellと提携した際、われわれは、知的財産にかかわるさまざまな問題の解決策、ならびにオープンソース製品とのさらなる相互運用性を確保する手段を見いだす必要があると述べたはずだ。そして、その考え方は今も変わっていない。にもかかわらず、フォーチュン誌の記事では、まるで当社が訴訟路線を突き進むかのように書かれてしまった。

 当社の知的財産に関する戦略については、これにかかわるすべての面々、すなわち(CEOのスティーブ・)バルマーからブラッド・スミス、わたし自身に至るまでの幹部全員が「訴訟ではなくライセンスを供与する(という方針でいく)」との共通認識で一致している。したがって、当社のほうから訴訟を起こすつもりはない。

 もちろん、「将来も絶対に起こさない」と断言することはできないが、訴訟に訴えるというのがMicrosoftの戦略ではないことだけは確かだ。にもかかわらず、先日の記事は、われわれが訴訟攻勢をかけるかのような内容になっていた。あの記事で唯一新しい情報だと言えるのは、(侵害されている)特許の具体的な件数だけだ。

――あの記事が掲載されたあとの人々の反応は?

 オープンソース・コミュニティ内の付き合いの深い友人たちからは、すぐに連絡が入った。欧州にいる知り合いからは午前2時に電話があり、いま話したとおりの説明をしたところ、「オーケー、それで安心した」と納得してもらえた。もちろん、違う反応もあった。

 例えば、ある人物からは、「君は会社と違う戦略を考えているのか」と聞かれた。最初はその質問の意味が分からなかったが、わたしは「とにかく、フォーチュン誌の記事をMicrosoftの戦略のマニフェストだととらないでくれ」と伝えた。

 実際、Microsoftの戦略は何ら変わっていない。一時的には、今回の記事の余波があるかもしれないが、それも時間がたてば落ち着くだろう。当社としては、これまでどおり戦略を進めていくだけだ。

――結果的に、侵害されていると主張する特許の件数を明らかにしたことは、Microsoftにとって良かったのか。

 Novellとの提携後、知的財産権の問題を理解できるよう「透明性」と「具体的な説明」を求める声が寄せられた。そこで、こうした問題が、どの分野にいくつあるのかをわれわれが公表すれば、人々に全体像を把握してもらえるのではないかと考えたわけだ。

 関係各社に対しては、特許をライセンスし、知的財産の問題を解決するよう強く呼びかけている。取るに足りない発明の特許を押し付けようというのではない。これは、約200件の主要特許が絡む重大な問題なのだ。

――Linux擁護派は、WindowsこそLinuxで開発された技術を使っている可能性があると反論している。LinuxとWindowsを熟知しているあなたから、この件に関して何か意見があれば。

 と言われても、これは、総括的に論じられるような問題ではないから。そもそも、特許とはきわめて限定的なものだ。「自動車」という特許を取得した人がいないことでもわかるように、一般的な特許など存在しないのだ。例えば、「OSはIBMが発明したのだから、後発のMicrosoftが入り込む余地はない」などとは、だれにも言えないだろう。

 現在のいちばんの問題は、だれもが特許弁護士あるいは裁判官になって、その特許が真の発明かそうでないかを判断したがっているという点にある。だが、それが特定企業の発明であるかどうかを最終的に決めることができるのは、“本物の”裁判官だけなのだ。

 個人的には、わたしはソフトウェア特許法の大々的な改革が必要だと考えているが、現時点では、当然のことながら、現行法が適用される。そして、われわれもほかの企業も、現時点では、もちろんこの現行法の下で事業を展開しているわけだ。したがって、改革の必要性を唱えるだけでなく、われわれは現在の枠組みの中で物事をうまく解決する方法を見いださなくてはならない。

――Microsoftは、オープンソース・プロジェクト・シェアリング・サイト「CodePlex」(http://www.codeplex.com/)などのプログラムを通じてオープンソース・コミュニティに「和解の手」を差し伸べようとしているが、同コミュニティは、今回のフォーチュン誌の記事にかなり動揺しているようだ。これが原因で、双方の協力関係にひびが入るようなことはないか。

 現在、Microsoftは3つの大きな課題に取り組んでいる。それは、「Linuxとの競争」「UNIXサーバと(Windowsサーバ)の競争」、そして「LinuxとWindows間の相互運用性の強化」だ。3つ目に関しては、当社の顧客の多くがLinuxとWindowsを併用していることもあり、Microsoftのソフトウェアと切り離せないオープンソースの“生態系”をぜひとも成長させたいと考えている。われわれの戦略はこれ以外にないし、ほかの戦略を隠しているわけでもない。

 わたし自身は、今回の一件がMicrosoftの「脅しではない」ということを人々に理解してもらうために、最大限の努力を惜しまないつもりだ。Microsoftは知財訴訟を仕掛けようとしているわけではなく、知的財産の問題を解決しようとしているだけなのだ。どうかそのことをわかっていただきたい。

提供:Computerworld.jp